米タンパク質の機能性研究
「米タンパク質」とは
お米から抽出・精製されたタンパク質です。植物由来のタンパク質では、すでに大豆や小麦から抽出されたものが広く利用されていますが、お米から抽出したタンパク質にはこれらとは異なった機能や特徴があります。
これまでの研究から、米タンパク質には痛風の原因である血中の尿酸値を下げる効果、消化管ホルモンの分泌を促進して血糖値の上昇を抑える効果があることが確認されました。 米タンパク質は、お米の健康機能がギュッと濃縮された成分とも言えるでしょう。
研究のきっかけ
世界に誇る長寿国、日本。その健康長寿の秘訣は食事にあると言われています。お米は日本食の中でも基本というべき食材ですが、その主食としての面以外はあまり知られていませんでした。
ほとんど炭水化物で構成されているお米ではありますが、たんぱく質を約7%含んでおり、1日3食ごはんを食べると約15gものたんぱく質を摂取していることになります。 食事摂取基準によると、1日のたんぱく質必要摂取量は成人で50~60 gですので、その25~30%をごはんから摂取していることになります。
日本人にとってお米は重要なたんぱく質源であり、そのたんぱく質に健康的な日本型食生活の秘訣があるのではないか?その様な思いから研究が始まりました。
研究内容
米タンパク質の多様な健康機能を明らかにするべく、新潟大学をはじめとした多くの大学の研究グループとの共同研究を行っています。ここでは、その中からいくつかの例を紹介します。
動物試験 – 新潟大学大学院自然科学研究科との共同研究
乳タンパク質を摂取したラットと米タンパク質を摂取したラットの、肝臓および血中の脂肪量を比較しました。
いずれも、米タンパク質を摂取したラットにおいて乳タンパク質を摂取したラットよりも脂肪量が少なくなりました。
臨床試験 – 新潟大学大学院医歯学総合研究科との共同研究
軽度肥満者に、米タンパク質もしくは乳タンパク質を4週間摂取してもらい2群に分けて比較しました。
・米タンパク質を摂取することで、比較対照群である乳タンパク質摂取に比べ、善玉コレステロールであるHDL-コレステロールの血中濃度が有意に増加していることが分かりました。
・また、データは省略していますが、米タンパク質摂取によって血中尿酸値が下がるということも分かりました。 血中尿酸値が高いと痛風になってしまうということは広く知られていますが、心筋梗塞や脳卒中といった心血管系の病気のリスクも上がってしまうことはあまり知られていません。米タンパク質の摂取には、痛風を予防するだけでなく、心血管系の病気を予防する効果もあるかもしれません。
動物試験 – 北海道大学大学院農学研究院との共同研究
ラットを用いた試験によって米タンパク質の摂取による血糖値上昇抑制作用が明らかになりました。 この血糖値上昇抑制作用のメカニズムを調べたところ、耐糖能改善作用をはじめ、インスリン分泌促進作用や食欲抑制作用を持つ消化管ホルモンであるGLP-1の分泌が米タンパク質摂取によって促進されていることが分かりました。
臨床試験 – 新潟大学大学院医歯学総合研究科との共同研究
維持血液透析を受けている方々は、体内のミネラル量調節能力が低下しているために厳しい食事制限があります。 特に摂りすぎが問題になりがちなミネラルにリンがありますが、タンパク質豊富な食材のほとんどはリンも多く含んでいるために、透析患者の方々はタンパク質の補給が難しい状態にあります。 米タンパク質はリンをほとんど含まないとても珍しいタンパク質素材ですので、透析患者の方の栄養補給食の素材として期待できます。 新潟大学大学院医歯学総合研究科と実施した臨床試験では、米タンパク質の摂取が透析患者の血中リン濃度を上げないことを確認しています。
表. 各タンパク質のミネラル含量
ミネラルの種類 | 米タンパク質 | 乳タンパク質 | 大豆タンパク質 |
---|---|---|---|
リン (mg / 純タンパク質100g) |
120 | 831 | 939 |
カリウム (mg / 純タンパク質100g) |
3.7 | 14.2 | 258 |
ナトリウム (mg / 純タンパク質100g) |
53.5 | 1,601 | 1,563 |
タンパク質純度 (%) | 92.0 | 88.7 | 83.8 |
信州大学学術研究院(農学系)大学院農学研究科との共同研究
ラットに米タンパク質を投与すると、免疫系で重要な役割を担っている小腸のパイエル板という組織において、細胞性免疫が活性化されることが分かりました。 細胞性免疫が活性化されると、ウイルス感染への抵抗力の上昇や、花粉症などI型アレルギーの抑制が起こるといわれています。
これらの研究のほか、毎日の生活にお米の健康機能を手軽に取り入れられるように、米タンパク質を精製した食品素材の開発も行っています。
研究者の声
米タンパク質の研究に携わるようになってからまだまだ日が浅いのですが、今まで知らなかったお米の機能を知り、日々新鮮な気持ちで研究に励んでいます。 この研究が、日本型食生活の、そしてお米の素晴らしさが再認識されるきっかけになることを願っています。