感覚に頼っていた微妙な味の違いを、
数字で見える化
入社1年目は、商品開発本部で調味(味付け)を担当しました。任されたのはスーパー向けの主力商品の味変えです。スーパーに並んでいる「亀田の柿の種」や「手塩屋」などはブランドの鮮度を保つために約3か月ごとにシーズン限定の味を出すのです。企画チームから「こんな味をつくってほしい」と依頼がきて味をつくるのですが、私は機器分析を得意としていたため、つくった味を数値化して提案していました。「ちょっと辛く」など感覚的な要望では分からない。そこで0.5辛、3辛など指標をつくって見える化。それらが目に留まり、2年目に米菓の基礎研究チームの立ち上げメンバーにアサインされました。
チームを発足して初めての仕事は、研究テーマを創出するために社内の要望を多角的にヒアリングすることでした。製造現場の課題を洗い出したり、お菓子のトレンドや地域の米菓をリサーチしたり。その中から、食感や味、香りの数値化を通して商品開発に貢献するという研究テーマが一つ立ち上がったのです。
X線CTを使って、
米菓の命、「食感」の数値化に挑戦
この研究で印象的だったのは「口どけ感の数値化」を大学と共同研究したことです。これをきっかけに、私は大学に博士課程で再入学し、通常業務と2足のわらじで構造解析などについて学びました。博士研究ではこれまでにない取り組みとして、X線CTを使って米菓の内部構造を数値化し、食感との関係を追求。さらに、サクサク食感と油の染み込みとの関係を明らかにし、それらを総合的に評価して口どけ感の数値化を行いました。これらの研究によって、米菓構造や食感を目に見える形で議論することができるようになり、開発や工場に製造条件にまで踏み込んだアドバイスができるようになったのです。この研究と今後の開発の精度アップのためには、高額なX線CTを導入する必要があり、それがどう会社に貢献できるかアピールしたこともいい経験でした。承認に苦心する中、経営幹部に研究で使った「亀田の柿の種」の空洞構造を披露する機会を得ました。目で見える面白さ、分かりやすさを伝えることができ、見事導入となったのです。